私は東京で生まれ育ち、本格的なドイツやフランスの美味しいパン屋さんを、いくつも知っていました。が、、、シュヴァルツ家で最初にパンを食べた時、その美味しさに衝撃を受けました。それからは、シュヴァルツ家のパンが私の世界一のパンになり、研修生の仕事のひとつである毎週金曜日と土曜日のパン焼きが楽しみでした。 はじめのうちは、家のキッチンとテラスにおいた一台の石窯オーブンで二種類のパンを焼いていましたが、売れ行き好調で二年目からは直売所のすぐ横に、パン焼き小屋を建て、今では三台のオーブンと3〜4人のスタッフで、10種類ものパンを焼いています。一人が生地作りと窯の予熱を2時半からはじめ、残りの人は4時から成形→焼成に入ります。薪をくべて温度を調節するのは、感覚をつかむまで大変でもあるけれど、美味しさは別格!焼きたてのパンを朝食に食べれば、早朝から働いてるのも忘れるほど幸せです。日本ではパン屋さんでアルバイトしたこともないけれど、ここでパン焼きの術をマスターし、皆に「日本に帰ったら、あなたはパン屋さんをやるべきよ!」と言われ、私は「そうしたいとこだけど、東京では難しいし、一から始めるのはとても大変」と説明しました。幸運にも、帰国後に塩尻の空家の話があり、求人情報を見たら、最初に‘農業公園内で石窯パン製造’という驚くべき求人にめぐり逢い、日本に帰ったら、石窯でパンを焼くことなんてできないと思っていたし、しかもそれが日本のスイスと呼ばれる信州だなんて!と運命的なものを感じました。就職後は、よくスイスでパンの修行をしてきたんだと思われがちでしたが…自分の店のように、スイス流のパン焼きをさせてもらえて、本当にラッキーでした。石窯パン製造の仕事を離れて、約二年。久しぶりのパン焼きでしたが、手は自然に動き、やっぱりパン焼きは大好きなんだなぁと改めて思ったのでした。